古来より中国や日本では、龍や鳳屋、麒麟は想像上の動物ではありますが、良いことが起こる前触れ、前兆として姿を現す瑞獣と信じられ、絵画や工芸品の吉祥文様のひとつとして描かれてきました。九谷焼も例外ではありません。九谷産で(1816〜1883)の小野窯時代の若い時に描いた赤絵の龍文様は絵画的で秀逸です。面白いのは、斎田伊三郎(道開)(1794~1868)です。道開は若い
ころ有田や京清水に遊び陶技を磨いたと言われています。彼が遺した赤絵作品の龍文様は赤絵細書割取見込竜図深鉢のように量産に向いた陶画的でやや稚拙なものと、狩野派の絵画のような筆致のものの両方があります。一見ひとりの画工の手ではないように思われるのですが、産業九谷の礎を築こうとしていた道開の試行錯誤の努力の跡と見ていいのではないかと思います。